京都地方裁判所 昭和42年(行コ)3号 判決 1968年4月03日
京都市右京区樫原百々池町一の二
原告
磯部龍蔵
右訴訟代理人弁護士
坪野米男
同
金川琢郎
同
市同区三条通西大路西入
被告
右京税務署長
北中善雄
右指定代理人
北谷健一
同
奥田五男
同
塚本信義
同
塩見和夫
同
大橋一
同
竹見富夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が昭和四一年一月一八日原告に対し昭和三八年分所得税につきなした更正処分および重加算税の賦課決定処分(以下本件処分という。)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因を次のとおり述べた。
一、原告は、昭和三八年七月九日、訴外株式会社戸部井商店(以下訴外戸部井商店という。)に対し、別紙目録記載不動産(以下本件不動産という。)を、代金一七、〇〇〇、〇〇〇円で売渡し、同日、内金五、〇〇〇、〇〇〇円を、同年九月一六日、残代金一二、〇〇〇、〇〇〇円を受領した。
二、原告は、昭和三九年三月一四日、被告に対し、別紙(一)の申告額欄記載のとおりの昭和三八年分所得税確定申告書を提出した。
そして、被告は、昭和三九年八月三一日、原告に対し、別紙(一)、(二)の当初更正額欄記載のとおりの更正処分をしたが、この更正処分は、原告が不服申立をしなかったので、そのまま確定した。
三、ところが、被告は、昭和四一年一月一八日、原告に対し、別紙(一)、(二)の再更正額欄記載のとおり、本件不動産の譲渡価額を金三一、六三八、〇〇〇円、譲渡所得を金一〇、四八六、八四七円総所得金額を金一〇、八七五、八四七円、本税の追加税額を金三、三三六、七六〇円、重加算税を一、〇〇〇、八〇〇円とする本件処分をした。
よって、原告は、被告に対し、本件不動産の譲渡価額を不当に高額に認定した違法がある本件処分の取消を求めるため本訴に及んだ。
四、被告主張事実第三項は否認する。
五、同第四項のうち、本件不動産の譲渡価額が金三一、六三八、〇〇〇円であることを前提にする事項は否認するが、その余は認める。
六、同第五項は否認する。
被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、原告主張請求原因事実第一項のうち、原告主張日時に、原告と訴外戸部井商店間に本件不動産を訴外戸部井商店に売渡す旨の売買契約が成立したことは認めるが、代金が金一七、〇〇〇、〇〇〇円であるとの点は否認する。
二、同第二、三項は認める。
三、本件不動産の売買代金は、金三二、六三八、〇〇〇円である。すなわち、原告は、本件において売買代金を金一七、〇〇〇、〇〇〇円と記載した不動産売買契約証書を提出し、これが本件売買契約書であって、売買代金は、真実金一七、〇〇〇、〇〇〇円である旨主張するけれども、右契約証書は、真実の譲渡契約について作成されたものではなく、本件売買によって納付すべき原告の本件係争年分にかかる適正な所得税を免がれる目的で作成されたいわゆる仮装契約書である。右のとおり本件売買価額が金三一、六三八、〇〇〇円であることは明らかであるから、本件再更正処分については原告主張のような違法は存しない。
四、譲渡所得金額は別紙(二)の「再更正額」欄記載のとおりであるが、その内容は次のとおりである。
(一) 「<1>収入金額」三一、六三八、〇〇〇円
右金額は、原告が訴外戸部井商店に本件不動産を譲渡したことによる収入金額である。
(二) 「<2>譲渡資産の取得価格」三、五〇六、九二〇円
原告は、本件譲渡資産(本件不動産)を、次の内容を有する不動産との交換によって取得したものである。
1 契約当事者
原告
訴外株式会社森川商会
2 交換物件
(1) 原告が交換により取得した物件
イ 本件不動産
ロ 同地上建設
木造瓦葺二階建居宅 六三坪一合
木造瓦葺平家建便所 二坪五合
土蔵造瓦葺二階建倉庫 一〇坪
(2) 原告が交換により譲渡した物件
イ 京都市下京区朱雀正会町七番地の二
宅地 一〇七坪
ロ 同地上建設
木造瓦葺平家建倉庫 一六坪八合
同 四〇坪
3 交換差金
原告から森川商会に支払うべき金額 三、七七〇、、〇〇〇円
4 契約日時
昭和三八年一月二四日
ところで、土地建物等の交換の場合においては、所得税法施行規則(昭和三九年政令第九号改正前のものをいい、以下「規則」という。)第九条の八第二項の規定に該当しないときは、同条第一項により、交換により譲渡した資産の譲渡がなかったものとみなされ、その後当該交換により収得した資産について譲渡等がされたときは、規則第九条の九により、交換により譲渡した資産の取得価額をもって当該交換により取得した資産の取得価額とみなされるのである。
従って、本件譲渡資産(本件不動産)の取得価額は、原告が交換により、取得し、その後訴外戸部井商店に譲渡した本件不動産につき、規則第九条第二号の規定により計算した金額である。
(三) 「<3>譲渡経費」九五四、〇一〇円
右金額は、本件譲渡に関し仲介料等として支払った金額(原告申立額)である。
(四) 「<4>譲渡原価計」四、四六〇、九三〇円
右金額は、<2>の金額と<3>の金額の計である。
(五) 「<5>買換資産の取得価額」七、〇四七、〇〇〇円
右金額は、原告が京都市右京区樫原百々池一の二に原告の居住用建物が新築するに要した金額(原告申立額)である。
なお、原告は、右建物を新築したことにより、訴外戸部井商店に譲渡した土地(本件不動産)にかかる譲渡所得金額の計算にあっては、租税特別措置法(昭和三九年法律第二四号改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第三五条の適用を受け。
(六) 「<6>差引譲渡収入金額」二四、五九一、〇〇〇円
右金額は、租税特別措置法施行令(昭和三九年政令第七三号改正前のものをいい、以下「施行令」という。)第二四条第四項前段に規定する収入金額で、<1>の金額から<5>の金額を控除して算出した金額である。
(七) 「<7>同上にかかる譲渡原価」三、四六七、三〇六円
右金額は、施行令第二四条第四項後段に規定する所得税法(昭和三九年法律第三号改正前の所得税法を指す。)第九条第一項第八号の規定により総収入金額から控除する当該資産の取得価額および譲渡経費で、<4>の金額に<6>の金額が<1>の金額のうちに占める割合を乗じて算した金額である。
(八) 「<8>差引金額」二一、一二三、六九四円
右金額は、措置法第三五条を適用した場合の所得税法第九条第一項第八号の規定により総収入金額から当該資産の取得価額および譲渡に関する経費を控除した金額で、<6>の金額から<7>の金額を控除して算出した金額である。
(九) 「<9>特別控除額」一五〇、〇〇〇円
右金額は、所得税法第九条第一項本文「……(第八号及び第九号に規定する所得については、当該各号の規定により計算した金額から十五万円を控除……)。……。」に規定する金額である。
(一〇) 「<10>特別控除後の金額」二〇、九七三、六九四円
右金額は、<8>の金額から<9>の金額を控除して算出した金額である。
(一一) 「<11>譲渡所得金額」一〇、四八六、八四七円
右金額は、所得税法第九条第一項第八号に規定する譲渡所得金額で、同条同項本文の第八号及び第九号に規定する所得についてのかっこ書後段に規定する<10>の金額の十分の五に相当する金額である。
五、原告は、前記のとおり、本件不動産の譲渡による収入金額三一、六三八、〇〇〇円を一七、〇〇〇、〇〇〇円とする仮装売買契約書を作成して仮装し、その仮装に基いて納税申告書を提出していたものである。
そこで、被告は、国税通則法第六八条の規定により過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、その基礎となるべき税額三、三三六、〇〇〇円(千円未満切捨)に百分の三〇の割合を乗じて計算した金額一、〇〇〇、八〇〇円を賦課決定したものであるから、本件重加算税賦課決定処分には何等違法は存しない。
よって、原告の本訴請求は、失当である。
証拠として、原告訴訟代理人等は、甲第一、二号証を提出し、原告本人の供述を援用し、乙第四ないし七号証の成立は認める(第六号証は原本の成立も認める。)、その余の乙号各証の成立は知らないと述べ、被告指定代理人等は、乙第一ないし七号証を提出し、証人辻彦彰、同城戸久郎、同井上喜代秀、同栗木博の各証言を援用し、甲第一号証の成立は不知、第二号証の成立は認めると述べた。
理由
一、昭和三八年七月九日、原告と訴外戸部井商店間に、本件不動産を右商店に売渡す旨の売買契約が成立したことは、当事者間に争いがない。
二、原告主張請求原因事実第二、三項は、当事者間に争いがない。
三、証人井上喜代秀の証言により真正に成立したものと認めうる乙第一号証、証人辻彦彰の証言により真正に成立したものと認めうる乙第二、三号証、成立に争いない乙第四ないし七号証(第六号証については原本の成立も争いがない。)と証人辻彦彰、、同城戸久郎、同井上喜代秀の各証言を総合すれば、被告主張事実第三項が認められ、原告本人の供述中右認定に反する部分は前顕各証拠と対比して採用できず、他に右認定を覆しうる証拠はない。
尤も甲第一号証(不動産売買契約証書)には、本件不動産の売買代金額を金一七、〇〇〇、〇〇〇円とする旨の記載が存するけれども、証人城戸久郎の証言によれば、これは虚偽の金額であることが認められる。
四、被告主張事実第四項のうち、本件不動産の譲渡価額が金三一、六三八、〇〇〇円であることを前提にする事項以外の事実は、当事者間に争いがなく、前記認定のとおり真正の売買額は金三一、六三八、〇〇〇円であるから、その余の主張事実をも肯認しうる。
五、前記三、四の各認定事実によれば、被告主張事実第五項を肯認しうる。
六、以上のとおり、本件処分については原告主張のようなかしは存在せず、本件処分は適法である。
よって、原告の被告に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 松本正一 裁判官 辰己和男)
別紙(一) 総所得金額等の計算書
<省略>
(注) 申告額欄の<13>の正当額は771,640円であるが原告は721,640円と申告している。
別紙(二) 譲渡所得金額の計算書
<省略>
目録
京都市下京区間之町高辻下る稲荷町五二三番地
一、宅地 二四五・五二平方米(七四・二七坪)
同町五二四番地
一、宅地 一〇三・一〇平方米(三一・一九坪)
以上